破産法及び民事再生法における,抵当権等の取扱いの原則

第1 不動産の場合

□ 銀行又は保証会社が自宅に設定している抵当権は,破産法又は民事再生法において別除権として取り扱われます(破産法2条9号,民事再生法53条1項)から,破産手続又は再生手続によらないで行使することができます(破産法65条1項,民事再生法53条2項)。
よって,銀行又は保証会社は,自己破産又は個人再生の場合であっても,破産手続又は再生手続と関係なく,別除権者として抵当権を実行し,自宅を競売にかけることができます。この場合,銀行又は保証会社は,別除権付破産債権又は別除権付再生債権を有することになります。
実際,①破産手続開始決定が出た時点での強制執行等の失効について定める破産法42条,及び②再生手続開始決定が出た時点での強制執行等の中止について民事再生法39条は,担保不動産競売等に言及していません。
しかし,後述する住宅資金特別条項を利用すれば,自宅を残しながら個人再生手続を利用できることになります。
□ 銀行等の抵当権者は,担保不足額を確定しない限り,自己破産における配当手続に参加したり,民事再生における再生債権の弁済手続に参加したりすることはできません(自己破産の場合につき破産法108条及び198条3項・205条前段,民事再生の場合につき民事再生法88条及び182条本文)。
なぜなら,担保権により回収できる債権の額についてまで破産手続又は再生手続に参加できるとすると,他の破産債権者又は再生債権者との間で不公平が生じるからです。

第2 自動車の場合

□ 自動車ローン(=オートローン。自動車の購入に対するローンのこと。)が残っている場合,ローンを組んだ信販会社は所有権留保権者として,住宅ローンにおける銀行又は保証会社と同様に別除権者となりますから,不動産の場合で述べたことが同様に妥当することになります。
□ ローンを組んだ信販会社は,販売会社に対して自動車売買代金を立替払いした上で,消費者に対し,立替金に分割払手数料を加算した金額(=立替金等債権)を分割払で請求してくる存在であり(割賦販売法2条4項所定の「個別信用購入あっせん」に該当します。),自動車に対して,立替金等債権を担保するために留保された所有権を有します。
□ 破産手続又は再生手続が開始した場合において破産者又は再生債務者の財産について特定の担保権を有する者の別除権の行使が認められるためには,個別の権利行使が禁止される一般債権者(破産債権につき破産法100条1項,再生債権につき民事再生法85条1項)と破産手続又は再生手続によらないで別除権を行使することができる債権者との衡平を図るなどの趣旨から,原則として破産手続開始又は再生手続開始の時点で当該特定の担保権につき登記,登録等を具備している必要があります(破産法49条,民事再生法45条参照)。
そして,登録自動車の場合,道路運送車両法4条による登録が第三者対抗要件とされています(所有権の得喪につき道路運送車両法5条1項,抵当権の得喪及び変更につき自動車抵当法5条1項)。
よって,車検証の所有者欄の登録名義人が販売会社のままであって,ローンを組んだ信販会社の名義になっていない場合,信販会社は,破産手続開始決定又は再生手続開始決定が出た後,破産者又は再生債務者に対し,留保した所有権を別除権として行使することができません(小規模個人再生の場合につき最高裁平成22年6月4日判決)から,登録自動車の引渡しを求めることはできません。

第3 担保権の実行手続の中止命令等

□ 民事再生の場合,①再生債権者の一般の利益に適合し,かつ,②競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認められるときは,③競売申立人の意見を聞いた上で(民事再生法31条2項),裁判所から,担保権の実行手続の中止命令を発令してもらうことができます(民事再生法31条1項)。
その趣旨は,再生債務者の財産の上に存する特別の先取特権,質権及び抵当権などの担保権を有する担保権者が担保権の実行としての競売手続を進めることにより再生債務者の事業の再生が達成できなくなるおそれが生じる場合に,その競売手続を相当の期間にわたり一時的に中止し,再生債務者に対して事業の再生のために担保権者と交渉して和解等をすることにより当該目的財産を維持・利用する機会を確保させるための時間的猶予を与える点にあります(東京高裁平成18年8月30日判決)。
□ 民事再生法31条1項は,集合債権譲渡担保のような非典型担保権についても類推適用されます(東京高裁平成18年8月30日判決)。
□ 中止命令に対しては即時抗告をすることができますものの,権利行使の禁止期間が経過した時点で抗告の利益が消滅します(東京高裁平成18年8月30日判決において言及されている最高裁平成14年9月27日決定)。
ただし,当該再生事件の手続においては有効なものとして確定した中止命令であっても,その後,外形的に当該中止命令と抵触する行為の実体法上の効力をめぐって債権譲渡担保権者と当該債権の債務者間に紛争を生じている訴訟においては,当該中止命令の実体的要件や手続的要件の欠缺を主張して,その有効性を争うことが許されます(東京高裁平成18年8月30日判決)。
□ 東京高裁平成18年8月30日判決が判示するところの,中止命令のそれぞれの要件の意義は以下のとおりです。
① 再生債権者の一般の利益に適合するというためには、中止命令により、再生債務者と担保権者との間に被担保債権の弁済方法等についての合意が成立して担保目的物を事業の再生のために有効利用することにより再生債務者の事業の継続を図ることができ、再生債務者の再生の現実的可能性が存在することについて、これを認めるに足りる客観的な資料が存在することを要するものというべきである。
② 競売申立人(担保権者)に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認められるというためには、担保権者が担保権の実行を中止されることにより、再生手続の遂行に伴い社会通念上受忍すべき通常の損害を超えて、異常な損害を被るおそれがないものと認められることを要するものと解される。そして、この要件は、再生債務者の事業の再生のために担保目的物を必要とする程度、担保目的物の担保余力、担保権者が他に被担保債権のための担保を取っているか否か、中止期間中の担保目的物の滅失や減価の有無と程度、担保権者に対する再生債務者の債務弁済の方針や見込みなどを総合的に考察して判断すべきものというべきである。
③ 競売申立人の意見の聴取は、中止命令が、再生手続によらないでその権利を行使することができる別除権に対する重大な制約となるため、競売手続の中止が競売申立人(担保権者)に不当な損害を及ぼすおそれがないか否かにつき審理する上で、担保権者に意見を陳述させるための機会を与えることを目的とする重要な手続であるから、意見の聴取という手続保障の機会を担保権者から奪うことは許されるものではないと解するのが相当である。
④ 集合債権の譲渡担保権者は、特例法2条1項〔注:現在の特例法4条1項〕所定の債権譲渡登記をすることにより、債権譲渡担保契約の存在を当該債権の債務者に秘匿しつつ、同一債権の譲受人や差押債権者等の第三者に対する対抗要件を具備し、その優先権を確保することができるものであるから、債権譲渡登記を了した譲渡担保権者については、特例法2条2項〔注:現在の特例法4条2項〕所定の登記事項証明書を交付してする当該債権の債務者に対する債権譲渡通知又は民法467条1項所定の債務者に対する債権譲渡通知が民事再生法31条1項に規定する「担保権の実行」に相当するものとして、同条項を類推適用し、その中止を命じることが許されるものと解するのが相当である。
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