配当手続

第0 目次

第1 最後配当・簡易配当・同意配当
第2 配当原資
第3 別除権者(例えば,抵当権者である銀行)の配当手続への参加
第4 破産手続において,財団債権を代位弁済した場合の取扱い等

第1 最後配当・簡易配当・同意配当

1 配当手続には以下のものがあり,最後配当,簡易配当又は同意配当が終わった後に破産手続終結決定(破産法220条)が下されます。
① 最後配当(破産法195条以下)
・ 法律上は原則的な配当手続であります者の,実務上は,(a)中間配当を行った場合,又は(b)簡易配当・同意配当を行うことが適当でないと判断された場合にのみ,例外的に選択されています。
② 簡易配当(破産法204条以下)
・ 最後配当をすることができる場合において,一定の要件の下で,最後配当に代えてする配当であり,(a)少額型(配当額が1000万円未満のとき。破産法204条1項1号),(b)開始時異議確認型(破産法204条1項2号)及び(c)配当時異議確認型(破産法204条1項3号)があります。
   個人の自己破産の場合,配当手続の9割程度が簡易配当になります。
③ 同意配当(破産法208条)
・ 最後配当をすることができる場合において,届出破産債権者全員の同意の下,最後配当に代えてする配当です。
   手続が簡易配当より更に簡略化され,簡易配当と比較しても一層迅速な配当の実施が可能でありますものの,その利用は,(a)破産管財人の定めた配当表,(b)配当額並びに(c)配当の時期及び方法について,届出破産債権者全員の同意が得られる事案に限られます。
④ 中間配当(破産法209条以下)
・ 一般調査期日が終了した後,破産財団に属する財産の換価の終了前において,配当をするのに適当な破産財団に属する金銭があると認めるときになされる配当です。
・ 中間配当があった場合,簡易配当は認められません(破産法207条)。
⑤ 追加配当(破産法215条)
・ 最後配当,簡易配当又は同意配当後,新たに配当に宛てることができる財産が発見されたときに,補充的にする配当です。
・ 破産手続終結決定があった後であってもなされることがあります(破産法215条1項後段)。

2 簡易配当は,最後配当と比較して以下の特徴があります。
① 裁判所に配当表を提出した直後の,破産債権者に対する周知方法が,個別の配当通知に限定されています(破産法204条2項参照)。
・ 最後配当の場合,債権者に対する周知方法として,配当の公告を利用できます(破産法197条1項)。
② 配当に関する除斥期間が1週間に短縮されています(破産法205条後段・198条1項参照)。
・ 最後配当の場合,配当に関する除斥期間は2週間です(破産法198条1項)。
・ 配当に関する除斥期間の起算日は,配当通知の到達に係る届出をした日となります。
③ 配当表に対する異議申立てについての裁判に対する即時抗告が許されません(破産法205条前段・200条3項参照)。
・ 最後配当の場合,即時抗告ができます(破産法200条3項及び4項)。
・ 配当は配当表に基づいて実施されますところ,配当に関する除斥期間が経過してから1週間の,配当表に対する異議申立期間(破産法200条1項・205条前段)が経過するまで,配当を実施することができません(破産法201条1項・205条前段)。
④ 配当額を定めた場合の債権者に対する個別通知が省略されています(破産法205条前段参照)。
・ 最後配当の場合,1週間の異議申立期間が経過した後,破産債権者に対し,個別に配当額の通知を出すことが必要となります(破産法201条7項)。
・ 簡易配当の場合,裁判所に配当表を提出した直後の,個別の配当通知に配当見込額が記載されています(破産法204条2項)。

3 破産管財人が配当をしたときは,裁判所に対して報告書を提出するとともに,配当額の支払を証する書面の写しを報告書に添付する必要があります(破産規則63条)。

4 大阪地裁第6民事部の場合,一般管財事件に関して,近年,中間配当を実施した事例は見あたらないものの,個別管財事件に関しては,年間数件程度の事件で中間配当が実施されています(月刊大弁24年5月号43頁)。

第2 配当原資

1 破産財団から以下の財団債権を控除した上で,なお余りが出る場合,破産債権者に対し配当するだけのお金があることになります。
① 破産管財人の報酬(破産法148条1項2号参照)
・ 大阪地裁の運用上,納めた予納金である20万円以上であり(破産法87条,破産規則27条参照),最優先に回収されます(破産法152条2項のほか,最高裁昭和45年10月30日判決及び最高裁平成23年1月14日判決参照)。
② 第三者の予納金償還請求権(破産法148条1項1号参照)
③ 破産手続開始前の原因に基づいて生じた,住民税,国民健康保険料等の公租公課(破産法148条1項3号,194条1項1号参照)
・ ここでいう公租公課には,延滞税又は延滞金が含まれますものの,加算税又は加算金は劣後的破産債権ですから,含まれません(破産法97条1項5号)。
④ 使用人の給料又は退職手当の請求権(破産手続開始前の3ヶ月分につき破産法149条)
・ 3ヶ月よりも前の分については,民法308条・破産法194条1項1号に基づき,優先的破産債権にとどまります(退職手当が民法308条の「給料」に含まれることにつき最高裁昭和44年9月2日判決)。
・ 平成15年8月1日法律第134号(平成16年3月1日施行)による改正前の民法308条は,雇用関係の先取特権の範囲を最後の6ヶ月間の給料に限定していました。

2(1) 破産手続開始決定後の,①破産財団に属する不動産(例えば,破産管財人が賦課期日の1月1日時点で売却も放棄もしていない,破産者名義の不動産)の固定資産税・都市計画税,及び②破産財団に属する自動車(例えば,破産管財人が賦課期日の4月1日時点で売却も放棄もしていない,破産者名義の自動車)の自動車税は,破産法148条1項2号に基づき財団債権となります。
   そのため,これらの租税は,破産手続開始決定後に発生した延滞金も含めて,破産管財人の報酬の次の順位で回収されます(破産法152条2項)。
(2) 破産管財人は,交付要求を受けた金額を支払うに足りる財団が形成された日の翌日以降の延滞税・延滞金の免除を求めることができます((a)国税につき国税通則法63条6項4号・国税通則法施行令26条の2第1号,(b)地方税につき地方税法209条の9の5第2項3号・地方税法施行令6条の20の3参照)。
(3)  破産財団に属する物件が他人の土地上に存在し,そのため,右土地を不法に占有することによつて生ずる損害金債権は,破産法148条1項4号所定の財団債権に当たる(最高裁昭和43年6月13日判決)。 

3 破産管財人は,優先的破産債権となる給料又は退職手当の請求権(破産手続開始の3ヶ月以上前の分)を有する者に対し,破産手続に参加するのに必要な情報を提供するように努めなければなりません(破産法86条)。

第3 別除権者(例えば,抵当権者である銀行)の配当手続への参加

1 破産手続開始決定時に破産財団に属する財産につき担保権を有する別除権者(破産法2条9項、10項)は,破産手続によらないで権利を行使できます(破産法65条)から,別除権の行使により完全な満足を受けうるかぎり,破産手続に参加する必要はありません。
   そのため,別除権者が破産債権者として破産手続に参加してその権利を行使できるのは,原則として,その別除権の行使によって弁済を受けることができない債権の額(=別除権不足額)についてのみとされています(不足額責任主義。破産法108条1項)。

2(1) 別除権という呼び方は,他の債権から特別に除外して弁済を受けさせる必要があるという点に着目したものであり,その実体は,破産財団に属する特定の財産に対する担保権の効力です。
   具体的には,①特別の先取特権(商事留置権を含むことにつき破産法66条1項,商事留置権につき消滅請求の余地があることにつき破産法192条),質権及び抵当権が別除権となります(破産法65条2項)ものの,②一般の先取特権及び民法上の留置権は別除権となりません(破産法66条3項参照)。
(2) 破産者が他人の債務について物上保証をしていた場合,担保権者は別除権を有することになりますものの,破産債権者ではありませんから,別除権を有する者が必ず破産債権者となるわけではありません。

3 別除権者が別除権不足額について破産手続における配当を受けるためには,配当に関する除斥期間(破産法198条2項・205条後段参照)内に,破産管財人に対し,①被担保債権の全部若しくは一部が破産手続決定開始後に,別除権を放棄したり,別除権者と破産管財人との間で一部放棄(=被担保債権の範囲の限定・縮減)の合意をしたりすることによって担保されなくなったこと,又は②別除権の行使によって弁済を受けることができない債権額(=別除権不足額)を証明する必要があります(破産法198条3項)。

4 別除権不足額の証明は実務上,別除権の目的物の処分なり,競売手続における配当表なりが要求されていることとの関係で,別除権の目的物の処分等よりも先に,破産手続で最後配当に関する除斥期間が経過してしまうと,別除権者は別除権不足額について配当を受けられなくなってしまいます。
   そのため,別除権者がこれを避けるためには,別除権を放棄する必要がありますところ,別除権放棄の機会を保障するため,破産管財人は任意売却又は破産財団からの放棄の2週間前までに,その旨を別除権者に通知する必要があります(破産規則56条)。

5 破産財団から放棄された財産を目的とする別除権につき別除権者がその放棄の意思表示をすべき相手方は,破産者が株式会社である場合を含め,破産者であります(最高裁平成12年4月28日決定)。
   また,株式会社が破産手続開始決定を受けて解散した場合(会社法471条5号),破産手続開始決定当時の代表取締役(以下「旧取締役」といいます。)は,会社法478条1項1号の規定によって当然に清算人となるものではなく(同時廃止決定が出た場合も同様であることにつき最高裁昭和43年3月15日判決参照),会社財産についての管理処分権限を失うのであって,その後に別除権の目的とされた財産が破産財団から放棄されたとしても,当該財産につき旧取締役が管理処分権限を有すると解すべき理由はありません(最高裁昭和43年3月15日判決)。
   そのため,別除権放棄の意思表示を受領し,その抹消登記手続をすることなどの管理処分行為は,会社法478条1項2号若しくは3号の規定による清算人(=定款で定める者若しくは株主総会の決議によって選任された者)又は会社法478条2項の規定によって選任される清算人により行われることとなります(最高裁平成16年10月1日決定参照)。

第4 破産手続において,財団債権を代位弁済した場合の取扱い等

1 破産手続において,財団債権である労働債権を代位弁済した場合の取扱い
(1) 最高裁平成23年11月22日判決は,以下のとおり判示しています(改行は筆者が行いました。)。
   弁済による代位の制度は,代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するために,法の規定により弁済によって消滅すべきはずの原債権及びその担保権を代位弁済者に移転させ,代位弁済者がその求償権の範囲内で原債権及びその担保権を行使することを認める制度であり(最高裁昭和55年(オ)第351号同59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号885頁,同昭和58年(オ)第881号同61年2月20日第一小法廷判決・民集40巻1号43頁参照),原債権を求償権を確保するための一種の担保として機能させることをその趣旨とするものである。
   この制度趣旨に鑑みれば,求償権を実体法上行使し得る限り,これを確保するために原債権を行使することができ,求償権の行使が倒産手続による制約を受けるとしても,当該手続における原債権の行使自体が制約されていない以上,原債権の行使が求償権と同様の制約を受けるものではないと解するのが相当である。
   そうであれば,弁済による代位により財団債権を取得した者は,同人が破産者に対して取得した求償権が破産債権にすぎない場合であっても,破産手続によらないで上記財団債権を行使することができるというべきである。
   このように解したとしても,他の破産債権者は,もともと原債権者による上記財団債権の行使を甘受せざるを得ない立場にあったのであるから,不当に不利益を被るということはできない。以上のことは,上記財団債権が労働債権であるとしても何ら異なるものではない。
(2) 租税債権の代位弁済の場合,求償権を担保するための抵当権に関する納付者の代位しか発生せず(国税通則法41条2項),弁済による代位がその債権の性質上生じませんから,労働債権の代位弁済とは取扱いが異なります(最高裁平成23年11月22日判決の裁判官田原睦夫の補足意見参照)。

2 民事再生手続において,共益債権を代位弁済した場合の取扱い
   最高裁平成23年11月24日判決は,以下のとおり判示しています(改行は筆者が行いました。)。
   弁済による代位の制度は,代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するために,法の規定により弁済によって消滅すべきはずの債権者の債務者に対する債権(以下「原債権」という。)及びその担保権を代位弁済者に移転させ,代位弁済者がその求償権の範囲内で原債権及びその担保権を行使することを認める制度であり(最高裁昭和55年(オ)第351号同59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号885頁,同昭和58年(オ)第881号同61年2月20日第一小法廷判決・民集40巻1号43頁参照),原債権を求償権を確保するための一種の担保として機能させることをその趣旨とするものである。
   この制度趣旨に鑑みれば,弁済による代位により民事再生法上の共益債権を取得した者は,同人が再生債務者に対して取得した求償権が再生債権にすぎない場合であっても,再生手続によらないで上記共益債権を行使することができるというべきであり,再生計画によって上記求償権の額や弁済期が変更されることがあるとしても,上記共益債権を行使する限度では再生計画による上記求償権の権利の変更の効力は及ばないと解される(民事再生法177条2項参照)。
   以上のように解したとしても,他の再生債権者は,もともと原債権者による上記共益債権の行使を甘受せざるを得ない立場にあったのであるから,不当に不利益を被るということはできない。
1(1) 被害者側の交通事故(検察審査会を含む。)の初回の面談相談は無料であり,債務整理,相続,情報公開請求その他の面談相談は30分3000円(税込み)ですし,交通事故については,無料の電話相談もやっています(事件受任の可能性があるものに限ります。)
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。

2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。