個人再生の場合の最低弁済額
第0 目次
第2 小規模個人再生の場合
第3 給与所得者等再生の場合
第4 個人再生における否認対象行為の取扱い
第5 大阪地裁の場合,個人再生委員は原則として選任されないこと
第6 個人再生手続と,公租公課,罰金等及び非免責債権との関係
第7 直前現金化と,個人再生事件の清算価値の計上における取扱い
* 債務整理・過払い金ネット相談室HP(LSC綜合法律事務所)に「個人再生の最低弁済額とは?」が載っています。
第1 総論
2 個人再生の場合,再生予納金として12,268円が必要になります(民事再生法24条1項,民事再生規則16条1項参照)。
3 不動産の清算価値の評価については,原則として時価評価と被担保債権額の比較によりますものの,例えば,共有物件であるからといって当然に低額で評価するものではありません。
4 親族の土地を使用貸借で借用し,その上に建物を所有している場合,土地の利用権については,底地価格の10%程度が清算価値として算定されることが多いです。
5 固定資産税・都市計画税相当額程度の賃料を支払っているに過ぎない場合,通常の必要費は借主負担であるとする民法595条1項に基づき,使用貸借と評価されます。
6 大阪地裁第6民事部の取扱い上,平成22年4月1日以降の申立て分から,普通預金(通常貯金を含む。)は現金に準ずるものとして取り扱われるようになりました。
8 給与所得者等再生における生活費の額の具体的内容は,民事再生法第二百四十一条第三項の額を定める政令(平成13年3月16日政令第50号)で定められており,①再生債務者の年齢,居住地域の他,②扶養親族の人数,年齢,居住地域等によって異なってきます。
9 給与所得者等再生の場合,給与所得者等再生を行うことが認められないときは,小規模個人再生による再生手続の開始を求める旨を記載して,申立書を提出するのが普通です(民事再生規則136条2項2号参照)。
第2 小規模個人再生の場合
2 小規模個人再生は,将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある債務者を対象としています(民事再生法221条1項)。
3
小規模個人再生の場合,以下の①ないし③の額のうち,最も大きい額を支払う必要があり,通常は③の100万円となります(これを「最低弁済額」といいます。)。
・ 大阪地裁の場合,自己破産の場合の自由財産の額(上限は99万円)を控除しないで清算価値が判断されます。
第3 給与所得者等再生の場合
2 給与所得者等再生の場合,以下の①ないし④の額のうち,最も大きい額を支払う必要があり,通常は④の額となります(これを「最低弁済額」といいます。)。
3 法定可処分所得額というのは,給与又はこれに類する定期的な収入の額(=給与・ボーナス等のこと。なお,子ども手当,児童扶養手当,就学援助費等は除く。)から,所得税,住民税及び社会保険料のほか,扶養親族を含めて最低限度の生活を維持するために必要な生活費(=生活保護受給者レベルの生活費)の額を控除した額をいいます(民事再生法241条2項7号)。
4(1) 同居の親族(例えば,共働きの配偶者)の収入は法定可処分所得額の計算に影響を与えません。
第4 個人再生における否認対象行為の取扱い
1 個人再生の場合,否認権が行使されることは原則としてありません(民事再生法238条・245条参照)。
しかし,再生債務者が支払不能になった後に特定の債権者に弁済を行ったような場合(例えば,給与の天引きという形での勤務先に対する借金の返済があった場合),破産手続における否認対象行為に該当する結果,個人再生との関係では,以下の不利益が発生します。
① 不当な目的による申立てに当たる危険
→ 否認対象行為の存在が再生手続開始前に判明している場合,破産手続による否認権行使を回避するという不当な目的で再生手続開始の申立てがされたものとして,当該申立てが棄却される可能性があります(民事再生法25条4号)。
② 最低弁済額が切り上げられる危険
→ 再生計画案における弁済率を算定する際は,計画弁済総額が,再生債務者が破産した場合の予想配当額を下回ってはなりません(清算価値保障原則)。
そこで,再生債務者が,特定の債権者に対して偏頗弁済を行っていた場合,弁済相当額が清算価値から流出していることとなりますから,同額が計画弁済総額に上乗せされない限り,再生計画案は,「再生債権者の一般の利益」に反して違法であり,当該再生計画案について付議決定をもらえません(民事再生法174条2項4号,202条2項1号及び230条2項)(東京高裁平成22年10月22日決定)。
つまり,再生債務者としては,当該否認対象行為を前提として,回復されるべき財産の価額を清算価値に加算した上で再生計画案を作成する必要があるということです。
2 ②については,否認対象行為により逸出財産が比較的少額であって,これを考慮しても清算価値が最低弁済額の要件を下回る場合(例えば,現存する清算価値が10万円で,否認権の行使によって回復されるであろう財産の額が50万円の場合,最低弁済額100万円を下回ります。),結果として,否認対象行為は手続に影響しないこととなります。
3 大阪地裁第6民事部では,給与の差押えがあり,債権者が取立等によって再生申立て前の1年(破産法166条参照)以内に債権の満足を得た場合,債権者が満足を得た額が清算価値に上乗せされることとなります。
ただし,当該行為は債務者の直接的な行為ではなく,債務者において容易に回避できないということも考慮し,清算価値に上乗せする額は,当該債権者が満足を得た金額そのものではなく,債権者が満足を得た金額から20万円を控除した金額とする取扱いがなされています(月刊大阪弁護士会24年4月号86頁)。
4 公務員である債務者の給与から共済組合の貸付金の返済のための天引きがされている場合(国家公務員等共済組合法101条2項,地方公務員等共済組合法115条2項)についても,受任通知後の天引き合計額については,偏波弁済として否認対象行為となります。
そのため,個人再生手続においては,清算価値補償原則との関係上,清算価値に上乗せされることとなります。
ただし,強制執行の場合と同様に,債務者自身で容易に回避できないものと考えられますから,清算価値に上乗せする額については,天引き合計額から20万円を控除することを認める取扱いとなります(月刊大阪弁護士会24年4月号88頁)。
5 ちなみに,通常の民事再生の場合,否認権限を有する監督委員(民事再生法56条1項)又は管財人(民事再生法64条)が選任される結果,監督委員又は管財人が訴え又は否認の請求により(民事再生法135条1項),否認権を行使することになります(①につき民事再生法127条1項,②につき民事再生法127条2項,③につき民事再生法127条3項,④につき民事再生法127条の2,⑤につき民事再生法127条の3,⑥につき民事再生法129条)。
第5 大阪地裁の場合,個人再生委員は原則として選任されないこと
2 弁護士代理の事件であっても事業による負債総額が3000万円を超えているような個人事業者の場合,売掛・買掛や手形取引等の信用取引を反復継続的に行っていることも多く,財産及び収入の状況の把握や再生計画の遂行の可能性の判断に困難を生じることが予想されますから,個人再生委員を選任して,財産及び収入の状況の調査や債務者が適正な再生計画案を作成するために必要な勧告を行うこととしています(この場合の予納金は30万円が目安となります。)。
第6 個人再生手続と,公租公課,罰金等及び非免責債権との関係
2 個人再生の場合,再生手続開始前の罰金,科料,刑事訴訟費用,追徴金又は過料(=再生手続開始前の罰金等。民事再生法97条)は,再生計画において減免その他権利に影響を及ぼす定めをすることはできません(民事再生法155条4項)し,再生計画において減免してもらうことはできません(民事再生法232条2項・244条参照)。
3 個人再生の場合,自己破産の場合の非免責債権は,原則として減額の対象となりません(民事再生法229条3項各号・244条)。
第7 直前現金化と,個人再生事件の清算価値の計上における取扱い
2 大阪地裁では,個人再生事件においても,普通預金を現金に準じるものとして取り扱っていますから,保有する現金と普通預金の合計額から99万円を控除した残額を清算価値に計上する運用が実施されています。
3 破産事件における取扱いと同様,再生債務者が実質的危機時期以降に財産を現金・普通預金化した場合,現金・普通預金化される前の状態を前提に清算価値が計算されます。
4 実質的危機時期以降に現金・普通預金化した財産(実質的危機時期以降に保険契約の契約者貸付を受けた場合も同じ。)を既に相当額の弁護士費用等の「有用の資」に充てた場合,その部分については,清算価値の計算に当たって除外することができます。
2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。