離婚訴訟
第0 目次
第2 離婚訴訟の訴状の特徴
第3 家庭裁判所の土地管轄の特徴
第4 離婚訴訟における離婚原因
第5 離婚訴訟における参与員の関与
第6 不貞行為の相手方に対する慰謝料請求
第7 離婚訴訟における訴えの変更及び反訴の特例
第8 離婚訴訟における和解
第9 離婚の届出
第10 被告に対する送達が公示送達によることが見込まれる場合の取扱い
*1 大阪家裁HPの「人事訴訟事件について」には,離婚訴訟の進行等に関する協力依頼,訴状チェック表,公示送達を求める場合の留意点,住所の秘匿等について書いてあります。
*2 訴訟手続一般に関しては以下の記事を参照してください。
① 弁護士依頼時の一般的留意点
② 陳述書
③ 証人尋問及び当事者尋問
*3 人事訴訟事件の調査について(平成22年9月29日付の最高裁判所家庭局長通達)を掲載しています。
第1 離婚訴訟で取り扱う事項等
2 ①親権者の指定,②子の監護に関する処分,③財産分与及び④離婚時年金分割は,本来は別表第二の審判事件であるものの,人事訴訟の附帯処分等として,人事訴訟の手続内で家庭裁判所に判断してもらうことができます(人事訴訟法32条)。
3 離婚請求等と同時に審理を行うことを求める附帯処分等の申立ては,事実審の口頭弁論終結時まで行うことができますものの,離婚等の訴え提起と同時に申立てをすることが多いです。
4 平成23年6月3日法律第61号(平成24年4月1日施行)による改正後の民法766条1項により,子の監護に関する処分の内容が以下のとおり明文化されました。
5 子の監護について必要な事項を定める場合,子の利益をもっとも優先して考慮する必要があります(民法766条1項後段)。
6 離婚訴訟の被告が,原告は第三者と不貞行為をした有責配偶者であると主張して,その離婚請求の棄却を求めている場合において,上記被告が上記第三者を相手方として提起した上記不貞行為を理由とする損害賠償請求訴訟は,人事訴訟法8条1項にいう「人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求に係る訴訟」に当たります(最高裁平成31年2月12日決定)。
第2 離婚訴訟の訴状の特徴
1 総論
(1) 離婚訴訟は,養子縁組に関する離縁訴訟,認知訴訟,親子関係存否確認訴訟等とあわせて,人事訴訟といわれます(人事訴訟法2条)。
平成16年4月1日に人事訴訟法(平成15年7月16日法律第109号)が適用される以前は,地方裁判所が取り扱っていました。
(2) 平成21年に全国の裁判所が新たに受理した人事訴訟は10,817件であり,そのうち9,625件(89.0%)が離婚訴訟です。
(3) 訴状には,請求を理由づける事実について具体的に記載し,立証を要する事項ごとに,当該事実に関連する事実で重要なもの及び証拠を記載しなければなりません(民事訴訟規則53条1項)。
(4) 離婚訴訟については,当事者の戸籍謄本を添付する必要があります(人事訴訟規則13条)。
なぜなら,離婚訴訟では,戸籍の届出又は訂正を必要とする事項に関する判決等の結果を戸籍事務管掌者(=市町村長)に通知し(人事訴訟規則17条,31条,35条),かつ,訴えを提起した者による10日以内の報告的届出(戸籍法77条1項・63条,77条2項)によって,戸籍の記載を行うことなどから,当事者の本籍の記載が必要となるからです。
2 附帯処分の申立て
(1) 離婚の請求と同時に,離婚に伴う附帯処分の申立て(親権者の指定については職権発動を求める申立て)をする場合,書面による必要があり(人事訴訟規則19条1項),その書面には申立ての趣旨及び理由を記載し,証拠となるべき文書の写しで重要なものを添付しなければなりません(人事訴訟規則19条2項)。
そのため,①財産分与の申立てをする場合,不動産の分与を求めるのであれば,その形成過程,並びに寄与の程度及び割合を具体的に記載し,対象となるべき不動産の登記簿謄本等の資料を提出する必要があります。
②養育費の支払の申立てをする場合,当事者の収入状況を具体的に記載し,収入に関する資料(源泉徴収票,確定申告書等)を提出する必要があります。
③標準報酬等の按分割合に関する処分(年金分割)を求めるのであれば,「按分割合に関する情報通知書」の原本を提出する必要があります(人事訴訟規則19条3項)。
(2) 財産分与の申立てをする場合,①原告の管理する分与対象財産,及び②被告の管理する分与対象財産のうち原告が把握しているものについて,「分与対象財産一覧表」を訴状の別紙として提出することが望ましいです。
(3) 被告本人の現在の収入に関する資料を提出することができない場合,被告のこれまでの収入の状況,学歴及び職歴を説明することで,被告の現在の収入状況を主張立証することとなります。
(4) 年金分割の申立てをする際に,訴状又は附帯処分申立書に申立ての趣旨を記載する場合には,「原告と被告との間の別紙記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定める。」というふうに記載します。
その際,訴状又は附帯処分申立書に,当該情報通知書の写しを別紙として添付する必要があります。
また,情報通知書は書証としても提出することが望ましいです(裁判所用に原本を提出し,被告用に写しを提出するわけです。)。
第3 家庭裁判所の土地管轄の特徴
2 家庭裁判所が離婚訴訟の土地管轄を有しない場合であっても,当該事件に前置される家事調停事件がその家庭裁判所に係属していたときには,調停の経過,当事者の意見その他の事情を考慮して特に必要があると認めるときは,申立てにより又は職権で自庁処理ができるとされています(人事訴訟法6条)。
ただし,条文上,「特に必要があると認めるときは」とあるように,自庁処理は,合意管轄なり応訴管轄なりを許容しない離婚訴訟の専属管轄において例外的な措置ですから,単に家事調停事件が係属していたという事情(家事調停事件については合意管轄が認められているのであり(家事調停規則129条1項),それゆえ,自庁処理されることを目的に調停裁判所を合意するということも考えられないわけではないのです。)だけで,自庁処理が認められるわけではありません。
3(1) 家庭裁判所は,離婚訴訟の土地管轄がある場合においても,当事者及び尋問を受けるべき証人の住所その他の事情を考慮して,訴訟の著しい遅滞を避け,又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは,他の管轄裁判所に移送することができます(人事訴訟法7条)。
(2) 未成年の子がいる場合,移送に当たっては,その子の住所又は居所を考慮することとされています(人事訴訟法31条)。
例えば,妻が子どもを連れて夫の元から実家に帰り,別居生活が始まったような場合に,夫が自宅所在地を管轄する家庭裁判所に妻に対する離婚訴訟を提起したとき,家庭裁判所は,婚姻住所,被告の応訴の負担,証拠収集,未成年の子の住所等を考慮して,妻の実家所在地を管轄する家庭裁判所に移送する可能性が大きいです。
4 離婚訴訟の土地管轄は専属管轄である点で当事者の住所地は厳格に審査されますから,戸籍謄本に加えて,住民票の提出を求められることが多いです。
第4 離婚訴訟における離婚原因
第5 離婚訴訟における参与員の関与
参与員というのは,調停委員と同様に民間から選ばれた人であり,審理又は和解の試みに立ち会って裁判官に意見を述べる存在です(人事訴訟法9条)。
(2) 参与員の場合,調停委員と異なり,除斥,忌避及び回避の制度があります(人事訴訟法10条,人事訴訟規則7条)し,調停委員として関与した人は参与員に指定されない取扱いとなっています(人事訴訟規則6条)。
2 参与員は,人事訴訟法が平成16年4月1日に施行されたことに伴い,導入されました。
3 参与員を関与させるかどうかは,当事者の意向によるものではなく,家庭裁判所の裁量的判断にゆだねられているものです。
そのため,当事者が参与員の関与を望まない場合でも,家庭裁判所がその必要があると認めるときには参与員を関与させることがある一方で,当事者が参与員の関与を希望していても家庭裁判所としてはその必要がないと認めるときには参与員を関与させないことがあります。
4 離婚訴訟の判決には,参与員が審理に立ち会い,その意見を聞いた旨が記載されますものの,参与員の氏名までは記載されません。
第6 不貞行為の相手方に対する慰謝料請求
4 不貞行為の相手方に対し,離婚に伴う慰謝料は請求できないこと
(1) 最高裁平成31年2月19日判決は以下のとおり判示しています。
① 夫婦の一方は,他方に対し,その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めることができるところ,本件は,夫婦間ではなく,夫婦の一方が,他方と不貞関係にあった第三者に対して,離婚に伴う慰謝料を請求するものである。
② 第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは,当該第三者が,単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。
以上によれば,夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対して,上記特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。
(2) 大阪の弁護士 重次直樹のブログに「最判平31.2.19:不貞相手への離婚慰謝料請求を原則否定」が載っています。
第7 離婚訴訟における訴えの変更及び反訴の特例
その代わり,離婚訴訟では,第一審又は控訴審の口頭弁論の終結に至るまで,①原告は,請求又は請求の原因を変更することができますし,②被告は,原告の同意を得ることなく,反訴を提起することができます(人事訴訟法18条)し,③時機に遅れた攻撃防御方法の却下(民事訴訟法157条)もありません(人事訴訟法19条1項)。
2 反訴の提起に関するこのような取扱いは,最高裁平成16年6月3日判決(先例として,最高裁昭和41年12月23日判決及び最高裁昭和58年3月10日判決参照)を明文化したものです。
第8 離婚訴訟における和解
2 平成21年に全国の裁判所で終局した離婚訴訟についていえば,判決で終局したものが3,829件(41.3%),判決以外で終局したものが5,433件(58.7%)です。
3 和解離婚の性質は,訴訟を終了させる訴訟上の合意であるとともに,実体法条の婚姻関係の解消に係る私法上の合意を家庭裁判所の面前で行うという性質を併せ有するものと解されています。
4 離婚訴訟を提起した後の当事者の合意による解決方法としては,家事調停に付する方法もあります(家事事件手続法274条1項)。
第9 離婚の届出
2 和解調書省略謄本(戸籍届出用)及び判決省略謄本(戸籍届出用)は,記録の存する裁判所で発行してもらえます。
第10 被告に対する送達が公示送達によることが見込まれる場合の取扱い
1 公示送達の認定のために必要な資料
一般的に,公示送達(民事訴訟法110条)を行うに当たっては,「公示送達申立書」のほか,以下の観点からの証明資料(客観性及び具体性を備えているもの)を提出する必要があります。
① 被告の最後の住所等の場所がどこであるか。
② 最後の住所等に被告が居住又は存在しないこと。
③ 就業場所がないこと,又は就業場所が判明しないこと。
2 公示送達を行う前提としての親族照会
(1) 離婚訴訟の判決には対世効が認められること(人事訴訟法24条1項)から,公示送達における「送達をすべき場所が知れない」という,いわゆる所在不明の要件の認定については,通常の民事訴訟と比べて厳格に行われます。
そのため,公示送達を行う前提として,家庭裁判所は通常,以下の者に対し,被告の所在についての照会を行い,被告の住所等が判明しないことを確認します(「親族照会」といいます。)。
① 被告の両親(実親及び養親
② 被告の子(実子及び養子)(ただし,満20歳以上の者に限る。)
③ 被告の兄弟姉妹全員
④ 被告の所在を知っている可能性のある者
(2) 親族照会では,以下の事項を照会します。
① 被告を知っているかどうか。
② 被告とはどのような関係か。
③ 被告の現在の連絡先を知っているかどうか。
④ 被告の連絡先を知っている場合,その場所はどこか。
⑤ 被告の連絡先を知らない場合,知っている可能性のある者の連絡先があるかどうか,あるとすれば,その者の連絡先はどこか。
⑥ その他被告に関することで知っていることはないか。
(3) 公示送達の申立てをする場合,親族照会の対象者の氏名及び住所(郵便番号を含む。)並びに被告との関係を記載した「親族等一覧表」を添付する必要があります。
なお,申立て段階では,被照会者の住所に関する資料の提出は不要です
(4) 親族照会は,家庭裁判所の担当書記官名で行われます。
担当書記官から照会書を発送した結果,照会書が郵便局から返送されたり,2週間以上の期限を過ぎても回答書が到着しなかったりしたときは,その旨の連絡が家庭裁判所から受任弁護士のところにあります。
この場合,被照会者の現住所を確認するため,住所に関する資料(住民票写し又は戸籍付票写し)(ただし,発行日から3ヶ月以内のものに限る。)のコピーを提出する必要があります。
3 就業場所の調査
(1) 離婚訴訟において公示送達の申立てをする場合,単に「被告の就業場所は知れない。」旨の上申書では足りないのであって,被告の就業場所に関する調査報告書を提出する必要があります。
ただし,原告と婚姻した時点で無職であった被告が,婚姻してから1度も就業していない場合,その旨を報告すれば足ります。
(2) 調査報告書を作成する際には,以下の点に留意する必要があります。
① 原告と婚姻した時点からの被告の職歴を具体的に記載すること。
② 原告が知っている被告の最後の就業場所に関しては,その勤務先の所在地及び名称を具体的に記載すること。
③ 最後の就業場所に対して,被告が現在でも勤務しているかどうかについて確認した上で,その内容について,①問い合わせをした日時,②問い合わせをした方法,③回答の内容,④可能であれば回答をした担当者の氏名をできる限り詳しく記載すること(書面による回答が得られたのであれば,その写しも添付すること。)。
2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。