過払金返還請求
第0 目次
第2 過払金返還請求訴訟
第3 返還を受けた過払金と税金
第4 途中からの履歴開示しかない場合
第5 生活保護と過払金の回収
第6 過払金返還請求権と,他の依頼者の残債務との差引計算は禁止されること
第7 訴訟外での和解と訴えの取下げ
第8 司法書士法3条に関する最高裁平成28年6月27日判決
第9 弁護士法72条に関する最高裁平成29年7月24日判決
*1 「弁護士依頼時の一般的留意点」も参照してください。
*2 教えて!債務整理HPの「教えて!過払金」が参考になります。
第1 過払金返還請求の法律上の取扱い
1 総論
(1) 過払金返還請求権は,商行為によって生じた債権に準ずるものではない点で,商事債権について5年の消滅時効を定める商法522条の類推適用はありませんから,その消滅時効は10年であります(最高裁昭和55年1月24日判決)。
そして,完済業者についても,取引が終了してから10年以内であれば,過払金返還請求をすることができます(最高裁平成21年1月22日判決参照)。
(2) 貸金業者に対する返済を連帯保証人が行っていた場合,当該連帯保証人が貸金業者に対して過払金返還請求権を取得することになります。
そのため,過払金返還請求権を有する貸金業者に対する借金について,連帯保証人による立替払いがなかったかどうかを必ずお伝え下さい。
(3) クレジット会社に対し過払金返還請求権が発生したとしても,クレジット会社がショッピングに基づく立替金債権を持っていた場合,両者を相殺した上での差額についてしか過払金返還請求をすることはできません。
なお,相殺の効力は,双方の債務が互いに相殺に適するようになったときに遡ってその効力が生じます(民法506条2項)。
(4) 和解をした貸金業者から,過払金の入金日前後に,和解契約書及び借用証書が送付されることがあります。
2 取引の中断がある場合の取扱い
貸金業者との間でいったん完済し,その後,再び借り入れた場合,一旦発生した過払金を再開後の借入に充当できるかどうかが争いとなる結果,引き直し計算後の残債務又は過払金の額について見解の相違が生じる可能性があります。
1年以上の中断期間がある場合,一旦発生した過払金を再開後の借入に充当できないと判断される危険が大きいです(その他,①契約書の返還の有無,②カードの失効手続の有無,及び③取引中断中の電話勧誘の有無といった事情が裁判所の判断を大きく左右します(最高裁平成20年1月18日判決参照)。)。
3 回収した過払金の取扱い
理論的には,受任者が委任契約によって委任者から代理権を授与されている場合,受任者が受け取った物の所有権は当然に委任者に移転するものの,金銭については,占有と所有とが結合しているため,金銭の所有権は常に金銭の受領者(占有者)である受任者に帰属し,受任者は同額の金銭を委任者に支払うべき義務を負うことになるにすぎません(最高裁平成15年2月21日判決)。
つまり,依頼した弁護士が受領した過払金の所有権は常に依頼した弁護士に帰属し,依頼した弁護士は,同額の金銭を委任者である依頼者に支払うべき義務を負うに過ぎないということです。
4 過払金の回収額
(1) 以下の事由がある場合,実際の和解額は請求額を大きく下回ることがあります。
① 冒頭残高をゼロ円であるとして請求した場合
② 1年以上の取引の中断がある場合
③ 債権譲渡があった場合
④ 依頼した弁護士の作成した引き直し計算に誤記があった場合
→ このようなことがないようにすることは当然ですが,依頼者においても,貸金業者から開示された取引履歴と引き直し計算との間で,各回の借入額と返済額に誤記がないかどうか(特に,一桁多くないか。)を確認した方がいいです。
(2) 三菱UFJニコス等のクレジット会社については,取引の中断等の事情がない限り,訴訟を提起せずに過払元利金に近い額で和解できることが多いです。
第2 過払金返還請求訴訟
1 過払金返還請求訴訟の提訴前の留意点
(1) 過払金返還請求をする場合,ほぼ常に訴訟提起をする関係で,受任してから1ヶ月以内に多額の実費が発生します(1社当たり1万円から2万円程度。)ものの,それ以後は,依頼した弁護士の報酬以外に,大きな費用は発生しません。
ただし,過払元利金の満額を払ってこない貸金業者に対して債権差押えを実施する場合,弁護士費用が別に発生します。
(2) 不当利得返還請求権の義務履行地は依頼者の住所地であります(民法484条)から,不当利得である過払金の返還請求訴訟は,依頼者の住所地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所に提起することができます(民事訴訟法5条1号)。
2 過払金返還請求訴訟の提訴後の留意点
(1) 過払金返還請求訴訟は,ほとんどの場合,依頼した弁護士限りで対応できますから,当事者尋問を実施する場合を除き,裁判期日に出席する必要はないです。
貸金業者の答弁書では,「第1回期日に出頭できない。」旨の記載がなされることがありますが,依頼者については,代理人である受任弁護士が出頭しますから,第1回期日に限らず,裁判所に出頭する必要はまずないです。
(2) 貸金業者に複数の代理人弁護士が付く場合がありますものの,代理人弁護士の人数が増えたことそれ自体が,裁判の結果に影響を与えることは絶対にありません。
訴訟代理人が数人ある場合であっても,各自が常に当事者を代理できます(個別代理の原則。民事訴訟法56条)から,通常は担当者1人が法廷に出席するだけです。
(3) 過払金返還請求訴訟に限らず,判決期日については,依頼した弁護士は出頭せず,判決言渡しの日の夕方ぐらいに判決書謄本(謄本というのは,原本全部のコピーをいいます。)を受領しに行くことが多いです。
(4) 一部又は全部敗訴の判決が言い渡されたときに不服がある場合,判決書の送達を受けた日から2週間以内に控訴する必要があります(民事訴訟法285条本文)。
第3 返還を受けた過払金と税金
2 5%の過払利息は,雑所得(=総収入金額-必要経費)の計算上,「総収入金額」に算入されます。
3 貸金業者に対する支払利息を必要経費とした上で従前の確定申告をしていた場合,以上の記述とは異なる取扱いとなります。
第4 途中からの履歴開示しかない場合
第5 生活保護と過払金の回収
2 生活保護受給中に貸金業者に対する返済を継続した結果,発生した過払金を回収した場合,生活保護法63条に基づき費用の返還を求められることがあります。
第6 過払金返還請求権と,他の依頼者の残債務との差引計算は禁止されること
2 債権の管理又は回収の委託を受けた弁護士が,その手段として本案訴訟の提起や保全命令の申立てをするために当該債権を譲り受ける行為は,他人間の法的紛争に介入し,司法機関を利用して不当な利益を追求することを目的として行われたなど,公序良俗に反するような事情があれば格別,仮にこれが弁護士法28条に違反するものであったとしても,直ちにその私法上の効力が否定されるものではありません(最高裁平成21年8月12日決定。なお,先例として,最高裁昭和49年11月7日判決参照)。
第7 訴訟外での和解と訴えの取下げ
2(1) 訴えを取り下げる場合,被告である貸金業者が既に答弁書を提出していたときは,被告の同意が必要となります(民事訴訟法261条2項本文)から,和解書と一緒に取下げの同意書も被告から提出してもらいます。
3 訴えを取り下げる場合,被告である貸金業者が答弁書を提出していなかった場合,被告の同意は不要であり,この場合,取下書の受付日又は期日において取下げの陳述がされた日が事件の終局日となります。
4 被告からの一部入金を理由に請求の減縮をする場合,訴えの一部取下げとして取り扱われますから,前述した手続が必要となります。
第8 司法書士法3条に関する最高裁平成28年6月27日判決
法3条1項6号イが上記のとおり規定するのは,訴訟の目的の価額が上記の額を超えない比較的少額のものについては,当事者において簡裁民事訴訟手続の代理を弁護士に依頼することが困難な場合が少なくないことから,認定司法書士の専門性を活用して手続の適正かつ円滑な実施を図り,紛争の解決に資するためであると解される。
そして,一般に,民事に関する紛争においては,訴訟の提起前などに裁判外の和解が行われる場合が少なくないことから,法3条1項7号は,同項6号イの上記趣旨に鑑み,簡裁民事訴訟手続の代理を認定司法書士に認めたことに付随するものとして,裁判外の和解についても認定司法書士が代理することを認めたものといえ,その趣旨からすると,代理することができる民事に関する紛争も,簡裁民事訴訟手続におけるのと同一の範囲内のものと解すべきである。
また,複数の債権を対象とする債務整理の場合であっても,通常,債権ごとに争いの内容や解決の方法が異なるし,最終的には個別の債権の給付を求める訴訟手続が想定されるといえることなどに照らせば,裁判外の和解について認定司法書士が代理することができる範囲は,個別の債権ごとの価額を基準として定められるべきものといえる。
第9 弁護士法72条に関する最高裁平成29年7月24日判決
つまり,140万円を超える過払金等について,依頼者が司法書士と締結した委任契約は無効である(最高裁平成28年6月27日判決)ものの,司法書士が相手方と締結した和解契約は有効であるということです(最高裁平成29年7月24日判決)。
上記の場合,当該委任契約を締結した認定司法書士が委任者を代理して裁判外の和解契約を締結することも,弁護士法72条に違反するものであるが,その和解契約の効力については,委任契約の効力とは別に,同条の趣旨を達するために当該和解契約を無効とする必要性があるか否か等を考慮して判断されるべきものである。
そして,認定司法書士による裁判外の和解契約の締結が同条に違反する場合には,司法書士の品位を害するものとして,司法書士法2条違反を理由とする懲戒の対象になる(同法47条)上,弁護士法72条に違反して締結された委任契約は上記のとおり無効となると解されるから,当該認定司法書士は委任者から報酬を得ることもできないこととなる。
このような同条の実効性を保障する規律等に照らすと,認定司法書士による同条に違反する行為を禁止するために,認定司法書士が委任者を代理して締結した裁判外の和解契約の効力まで否定する必要はないものと解される。
また,当該和解契約の当事者の利益保護の見地からも,当該和解契約の内容及びその締結に至る経緯等に特に問題となる事情がないのであれば,当該和解契約の効力を否定する必要はなく,かえって,同条に違反することから直ちに当該和解契約の効力を否定するとすれば,紛争が解決されたものと理解している当事者の利益を害するおそれがあり,相当ではないというべきである。
以上によれば,認定司法書士が委任者を代理して裁判外の和解契約を締結することが同条に違反する場合であっても,当該和解契約は,その内容及び締結に至る経緯等に照らし,公序良俗違反の性質を帯びるに至るような特段の事情がない限り,無効とはならないと解するのが相当である。
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